レポート
2024-07-01 近況
にぎやかになりました! しばらくの間、放牧地に並ぶ顔ぶれに変わりはなく、平穏な空気に包まれていた珠洲ホースパークですが、風雲急を告げる出来事がありました。そうです、中京記念コンビ・グルーヴィットとベレヌスが、5月24日に当地へ到着したからに他なりません。新入り2頭が到着した時の様子について、角居さんは「グル君(グルーヴィット)は、到着当初から人の言うことを素直に聞いてくれる、とても安定した精神状態でした。ベレ君(ベレヌス)が少し精神的に不安定だったあたりを見ると、馬運車での長い道中をグル君がずっと支えてくれた感じがありました。『移動中は特に喧嘩もせず、スムーズに運ぶことができました』とのことでしたので、到着後はこちらの環境に慣らすために、放牧地脇の角馬場に2頭を入れていたのですが・・・。ベレは精神面の不安定さが原因かと思うのですが、現役を終えてから間もなく、体力が有り余っていることも相まって、グルにやたらぶつかってみたり、噛みつきにいこうとしたり、と攻撃的なところを見せたんです」
続けて、「それでも1週間が経過したので、全頭を同じ放牧地に放つことにしました。ここ最近、群れのトップに近い場所にいるような存在となったカウ君(カウディーリョ)が、新入りに洗礼を浴びせることはある程度織り込み済だったのですが、仲間に入れないストレスを抱えたベレが、グルに八つ当たりするようになって・・・。このままだとグルがちょっと可哀想というか、孤立してしまう可能性もあったので、グルーブ分けすることにしました。具体的にはカウとセリにグルをつけて、ベレはアル、ポッキー、ポニーのテンと一緒に、と。そうしたところ、前者は何となくバランスが取れて、後者も力関係が拮抗しているのか、お互いがお互いを受け入れるような感じになって、変な小競り合いもなく、良好な関係性を築けるようになりました。ただ、セリが発情期に入った頃、新入りの2頭は男子校からの転校生ではないですが、過敏に反応してしまい、ビービー鳴いていましたね(笑)」と回顧してくれました。
キャロット卒業生の3頭について、角居さんに伺いました。
「まずカウですが、ここ最近はバランスよく歩けるようになっただけでなく、メンタル的にしっかりしてきたことで、誰でも乗せることができるようになりました。実際に今はスタッフに乗ってもらっています。賢さもありますし、これからは何でもできるようになると思います。群れの中ではリーダー的存在ということで、新入りのベレに挑まれるシーンがありました。返り討ちにしたものの、全身に少し傷がついてしまいましたね。そのストレスなのか一時ボロが緩くなったりしましたが、今では元気いっぱいに放牧地で草を食んでいます。リーダーではあるんだけど、僚馬に高圧的な態度をとることはなく、いい関係でまとめます!というタイプなので安心して見ていられますね。現時点では2番手のベレとアルの順位付けが終わっておらず、立場的に急に怒ってベレを叱るべく、噛みつきにいったり、蹴ったりするようなところが出てくると思うので、そこをどうやって馴染ませるかが今後の課題になりそうです」
「次にグルですが、曾祖母が名牝・エアグルーヴですね。この血統は調教師時代に何度かやらせてもらいましたが、乗り味にある共通点がありました。弾みながら歩くという特徴があり、背中越しにいい反動を感じることができるんです。グルも例に漏れず、背中の動きが実に良く、さすがはエアグルーヴの血を引く馬だなと実感しているところです。上下動が大きく、初心者だとちょっと不安に感じる動きかもしれませんが、リズムさえ合わせれば、馬もそのリズムを守ってくれるので、乗り慣れた人間であれば乗っていて楽なんです。良家のおぼっちゃまといった印象があって大人しく、精神的にも安定しています。この気性であれば、将来活躍の場を広げられそうです。その反面、争い事は苦手っぽいところもあるので、今後群れの中でうまく順応してくれればと思っています」
「最後にベレですが、一言で言えば『パワー勢い系』ですね。競走馬を普通に作っていくとこんな感じになるんじゃないですかね。パワーがあって、オラオラしてるって感じ(笑)。ただ、この手のタイプは上下関係が決まりさえすれば、それ以降は簡単にコントロールできるパターンが多いです。だからこそ、当面はベレの気持ちを大切にして接していきたく思います。パワー系はモロに感情が表に出てきますが、その感情を折り過ぎてしまうと全く前を向けなくなってしまうので、群れのボスが誰かということだけはしっかり認識させた上で、あとは持っている気性を少しだけ出させてあげることが大事になるでしょう。こちらに来た当初はちょっとした馬体の歪みが苦しかったのか、そのストレスからやんちゃしていた感がありましたが、角馬場で乗ってバランスを整えたところ、かなり精神的に落ち着いてきましたね」
馬たちが放たれている放牧地を眺めながら、角居さんはこう呟きました。「引退から間もないこともあって、グルとベレは高級アメ車みたいに毛ヅヤが艶々で、ギラギラ光って見えます。でも、そういった見た目は競走馬には必要だけど、ここでは必要ないんです。現役時とは異なる食生活、そして、こちらでの日々の運動を経ることで自然な毛色、体つきになっていくことが望ましいですね。いわば『能登色』に染まる、といった感じでしょうか。調教師になりたての頃は、与える栄養価について頭を悩ませていました。エネルギーには、体を維持するためのエネルギー、速く走らせるためのエネルギー、食べたものを消化するためのエネルギー・・・。結論は与えすぎてはいけない、ということなんですよね。飼料を与えたら、少し残しているくらいがちょうど良いのでは、と今では考えるようになりました。そんな、これまで経験した中で得た知識を、ここ珠洲ホースパークにいる馬たちに還元すべく、日々の飼養管理をしっかり行い、現役時とは違ったサラブレッド本来の装いを皆様にご覧いただければと思っています。震災から半年が経過しましたが、珠洲はまだ復興もままならず、珠洲ホースパークも必要最低限の復旧に留まっています。少しでも早く皆様に安全にお楽しみいただける施設になるよう、そして安心して馬とのひと時を満喫いただけるよう、スタッフとともに施設の復旧を進めてまいりたく思います。引き続き、応援を賜るとともに、ほんの少しで結構ですので、頭の片隅に珠洲のことをとどめておいていただければ幸いです」
2頭が加入して、放牧地はにぎやかに(^^)
日々進化し続けるカウディーリョ♪
グルーヴィット、上質な乗り味って褒められちゃった(#^^#)
ベレヌス、身体が整ってきたよ♪
蹄のケアもしてもらいます(^^)/