レポート

2026-03-09 NEW 近況

雪中の奥能登で、静かに力を蓄える馬たち

能登半島地震の発生から2年の月日が流れると同時に、間もなく2回目の冬が過ぎ去ろうとしています。今冬は雪が比較的少なかった昨年とは異なり、何度も大雪に見舞われたことで、珠洲ホースパークでもしっかり雪が積もる日が多くありました。そんな白銀の世界に包まれても馬たちはいつもと変わりなく、それぞれの時間を思い思いに過ごしてきました。その様子について、いつもどおり、角居さんに聞いてみようと思います。

―――冬場の馬たちを見ていて感じたことはありますか?
「北海道出身の馬たちは寒さには強いものの、雪が深く降り積もってしまうとさすがに自ら進んで動くことは少なくなります。それでも体調自体はとても良く、どの馬も身体に張りが出て、ひと回り大きくなってきました。雪かきに追われる人間側の事情もあり、運動は2〜3日おきになってしまうこともありましたが、軽い運動と休養を繰り返す生活リズムは、結果として馬たちの身体をゆっくり整えることに一役買った感じです。強い負荷をかけるトレーニングではなく、自然の中で自ずと身体が整っていく、そんな季節なのだと感じています。長年、馬を見てきて思うのは、馬の身体には“記憶”があるのではないかということ。というのも、競走馬時代に鍛えあげられた筋肉の“質”そのものには戻らないにしても、適切な環境が整えさえすれば筋肉の“量”は驚くほど戻ってくるからです。まるで身体が動き方を思い出していくかのように。アスリートたる競走馬としての力が、静かに蘇ってきているようにも思えるんです」

―――それでは、次は個々の馬について伺いたく思います。まずカウディーリョはいかがですか?
「カウディーリョは、この冬でひと回りもふた回りも大きくなりました。首差しから肩、そしてトモにかけての厚みが増し、立ち姿には確かな自信が滲みます。雪の中に立つ姿は実に堂々としたもので、“群れを背負う存在”という言葉が自然と浮かんでくるほどです。その一方、群れの中ではカテドラル、グルーヴィットとの三つ巴の関係が続いています。唯一の牝馬であるセリちゃんの発情をきっかけに力関係が揺れ動き、緊張感が張り詰めるタイミングもありました。カウディーリョは決して好戦的なタイプではありませんが、それでも群れのリーダーとしての責任を背負い、“攻めるというより、守る”という姿勢で、これまでと変わりなく立ち続けています。必要以上に争わず、それでも退かない、という姿勢に彼らしい誠実さが垣間見えます。時折見せる繊細な表情からは、優しさと緊張の両方が感じられますが、それこそが彼の強さでもあるんです。深い雪の中でも、まず周囲を見てから動く慎重さ、仲間の動きを確認しながら一歩を踏み出すさまは、まさに群れの中心に立つ馬の姿と言えます。今は少し難しい立場にいますが、この経験は間違いなく彼の精神をより成熟させるはずです」

―――群れの中で珠洲歴が一番浅いカテドラルはどうでしょう?
「カテドラルは、今まさに変化の真っただ中にいると言えるでしょう。こちらへ来た当初は身体が張り詰めていて、環境の変化に少し身構えている様子も見られましたが、ここ最近は表情が確実に和らいできました。群れの中での立ち位置も落ち着いてきたことで、本来の彼らしい雰囲気が戻ってきたように思います。以前はやや臆病さがやや目につくシーンもありましたが、今は違います。視線がぶれず、脚取りも安定し、自分の居場所を理解しているように見えます。皮膚が薄いことで冬毛は一番長く伸びており、見た目にはまだ荒削りな部分もありますが、それは決して後退ではありません。秋から冬にかけて一度状態を落としたことが、むしろ春への準備期間となったような感じです。これから生えてくる青草をしっかり食べ、冬毛が抜けてきたとき、おそらく最も劇的な変化を見せるのはカテドラルでしょう。今はそこへ向けての“助走”の期間と捉えています。騎乗した際の感触は良好で、背中の使い方にも芯が出てきました。焦らず、無理をせず、しかし確実に前へ進んでおり、これから輝きを増すはずです。そんな予感は今の姿からはっきり感じとることができます」

―――最後はグルーヴィットです。珠洲入りした当初はあまりうまく動けていなかった印象がありましたが・・・
「グルーヴィットはこの冬、大きな壁を越えた感じがします。背中に痛みを抱えていた頃は、群れから少し離れ、一頭で過ごすことが多くありました。自分の身体の状態を理解することで、無理をせず、静かに耐えていたのでしょう。その姿を見守る時間は、私たちにとっても決して短くはありませんでした。背骨の棘突起に負担がかかると痛みが生じてしまい、筋肉が使えなくなってしまうんです。そこまで行ってしまうと回復は一朝一夕になせるものではありません。焦らず、強い負荷をかけず、じっくり待ちました。その甲斐あって、今では背中に筋肉が戻ったことでラインが整い、それにつれて動きのバランスも安定してきましたね。実際に深い雪の中でもしっかりと背中を使うことができ、以前のような不安定さを感じさせることはありませんでした。我慢する、あの時間があったからこそ、今の落ち着きがあると言えますし、弱さを知ったからこそ強くなった、群れの中で再び自然に振る舞う姿を見たとき、“戻った”というより“一段上がった”と感じることができました。確実に前へと進んでおり、ここからさらに良くなる、そんな確かな手応えを掴んでいます」

―――最後にご覧いただいている皆さまに向けてメッセージをお願いします
「ここまでにお話させていただきましたとおり、馬たちは確実に前進しています。同時に珠洲ホースパークも今春に新厩舎が竣工を迎えるなど着実に前進しており、在厩馬に対する指導も本格的に始められると思います。パーク全体の整備が完了するまでにはもう少しだけ時間がかかる見込みですが、訪れてくださった方に“なんだか心地よいな”、“ここに来るとホッとする”と思っていただける空間を提供できる日が近づいていることは間違いありません。雪が解けて、能登にやわらかな風が戻るころ、ぜひ馬たちに会いにいらしてください。写真やテキストでは伝えることが難しい“今の輝き”をきっと感じ取っていただけるはずです。これからも温かく見守っていただければ幸いです」

サンタさんに扮して皆に幸せを運びます(^^)/ カウディーリョ

雌伏の時を過ごしていますよ~^^ カテドラル

厩舎内で入念にお手入れされています♪ グルーヴィット

各々が雪中でまったりと・・・時間がゆったり流れます

新厩舎は今春、竣工の時を迎えます!

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